目次
▼取引の実践について
▼Infomation LINK

バリューアットリスク




 資産価格の変動によって損失が生じるリスクのことを市場リスクと呼んでいます。
市場リスクは、ポジションを持った瞬間から生じます。この市場リスクを管理する方法としては、まずポジション枠の設定が考えられますが、より洗練されたリスク管理手法としてバリューアットリスクがあります。

バリューアットリスク(VAR)とは、一般的に「ある一定期間内に統計上予想される最大損失額」と定義されますが、簡単に言うと「どれだけの損失の可能性があるか」という問いに対する解答の試みです。
この問いには2つの問題があり、第1点として、理論的にはどんな額の損失も発生する可能性がありますので、私たちが取り組むべきなのは、可能性ではなく確率の問題です。第2点としては、期間が長くなればなるほど当然持ちこたえるべき損失額が大きくなるのかとどうかという点です。VARの計算にはホライズン=対象となる期間、コンフィデンスレベル=確率という2つの重要なパラメーターが存在します。

私たちが一定の確率で一定の期間にどれくらいの損失が発生するのかを調べる上でホライズンとコンフィデンスレベルというのが基本的な要素となります。ここで、別の切り口からVARの値Vを考えてみます。このVは、経験的に最も大きな損失を出す可能性のある場合をX%もしくは確率Xとし、それとその他の損益を表す1-Xとの分岐ラインを表します。この2つのパラメーターの一般的な選択法を見ていきたいと思います。

ある1日をホライズンとし、そして損失の可能性として5%を選択します。次にVつまり損失の金額を規定いたします。これは損失額の下から5%とその他の95%の分岐ラインを表します。これをヒストリカルに考えてみましょう。1000日間過去に遡るとして、そのうち50日間は予想外の大きな損失を被るでしょう。残りの950日は、それよりもよい状況でしょう。過去の経験から損失額を出していくわけですが、過去1000日間を用いることを前提としています。そこで、この損失額ですが、過去1000日間どうであったかということで、益の大きい順にリストアップしていきます。

日次損益ランキング

最高益+4,000,000
+3,800,000
+3,650,000
------------
------------
-1,150,000 VAR 【5%、1日】
-1,165,000
-1,180,000
------------
------------
最大損失-3,500,000

 1番いい日は利益が400万円、そして1番悪かった日が、これが1番下になるわけですが、損失が350万円とします。そこで確率を5%で設定していますので、1000日間の5%、すなわち50日間ということになります。今度は50日間を見ていき、リストの下から50日目のところが分岐ラインになります。これがVARの値となり、この場合115万円となります。この例のVARでは、確率5%、対象期間1日、VARは115万円となります。ここでは過去に目を向けていますが、リスク管理するに当たっては、当然のことながら将来を見なくてはいけません。将来が過去とそれほど変わらなければ、VARはここに示されている115万円ですが、将来は過去と一致しません。

そこで、過去にポートフォリオにどのような損益が生じたかを考える必要があり、かつ最大の益と最大の損の分布状況を知ることが必要です。例えばJPモルガン社のリスクメトリックスでは、その分布状況を分散や共分散を用いて市場のデータから再評価することを行っています。(なお、このような分散共分散法ではなく、1日あたりのポートフォリオの価格変化を1万回シュミレーションしてVARを求めるモンテカルロ・シミュレーション法だと上記のようにリストの下から5%、50番目の値がそのままVARの値となります。)

ポートフォリオが将来どう変化するかを説明するために、バーテックスの考え方、キャッシュフローのマッピングの構造を理解する必要があります。まずVARでは、行うであろうすべての取引をキャッシュフローの形式に単純化します。そしてJPモルガン社がリスクメトリックスを開発したとき導入した概念であるバーテックスとは、キャッシュフローを標準化すること、市場の特性を描き出すために標準化した情報としてまとめることを意味します。このバーテックスに関しては、ボラティリ
ティや相関関係の情報があります。

次にキャッシュフローのマッピングの概念ですが、一定のポートフォリオ、あるいは個々の取引について、それを特定の標準化されたバーテックスに存在する一揃いのキャッシュフローを作成すること(任意の商品からキャッシュフローを取り出し、それをバーテックスに当てはめていくこと)を意味します。こうした方法では、もとのポートフォリオに付随するリスクは、キャッシュフローに存在するリスクと同じです。そして最後の段階でキャッシュフローマップを抽出して1つのVARの値にまとめます。

具体例として、原油を100キロリットル購入するという先物契約を考えます。1キロリットル当たり価格は2万5千円を支払います。この場合、5月が受渡月とします。まず、この取引をキャッシュフローの形にまとめていく必要があります。これは「キャッシュフロー・シュレディング」と呼ばれています。この取引のキャッシュフローのマップを作成する場合、常に2つのキャッシュフローマップができることになります。1つは支払いの円のキャッシュフロー、2万5千円×100=250万円と、原油を受け取りますので250万円相当の商品としての原油のキャッシュフローです。対象は1日、確率は5%に設定してVARを計算します。すなわち1日で確率が5%であれば、どのくらい損をする可能性があるかを見ていきます。この計算をするに当たり、原油相場のボラティリティを25%と仮定します。

 このVARの計算は、原油のキャッシュフローを分析するもので、金額としては、250万円×0.25(ボラティリティの25%)×1.645(確率5%のコンフィデンスレベルの標準偏差の調整値)÷260(1年間の取引日)の平方根 となります。VARを計算したところ6万4千円となりますが、6万4千円という意味は翌営業日までにこの金額以上の損失が出る確率が5%であることということです。  

 

 別の言い方をすると6万4千円というのは、翌営業日までの1日間に損を出す確率が5%であった場合の損失金額は幾らかということを示しています。上記の例は簡略化されたもので、1つの先物契約から生じるキャッシュフローを対象としていました。複数の対象商品に基づく複数の契約がある場合は、相関関係のデータが必要となり、より複雑な計算式を用います。

 このようにVARは、多種多様なポートフォリオのリスクを共通の尺度で把握できる特徴があり、「あるポートフォリオのリスク・エクスポージャーをカバーするためにどのくらいの資本が必要なのか」、「リスクを支えるためにどれくらいの資本が必要なのか」なども教えてくれます。しかしVARにも限界が存在します。資産価格がジャンプした場合や相関係数が変化することに伴うリスクです。資産価格が急激にかつ大幅に変化しる場合のリスクは、VARではうまくとらえられないことが多いといえます。

 この場合のリスクを計るにはストレステストと呼ばれる手法があります。ストレステストが必要になる例としては、1987年米国のブラック・マンデーが挙げられるでしょう。ポートフォリオのストレステストは、異常な価格変動やボラティリティ変化、流動性の低下、信用力低下、カウンターパーティーの倒産等の異常事態に対し保有しているポジションがどれほどの耐久性を持つかをあらかじめ検討するものです。ストレステストの具体的な手法は、将来の市場環境についての多数のシナリオを作り、各シナリオ下での保有するポジションの損益等をシミュレーション計算する手法です。



Copyright (C) 2009 FX-HAJIMERU